【パレスチナ料理 ビザン】 パレスチナ出身のオーナーシェフが作る本格中東料理@十条
- Zindabad Japan by Endo Atombashi
- 2019年7月11日
- 読了時間: 9分

〔ビザンのオススメ料理 ムサカ〕
東京都北区、JR埼京線の「十条駅」とJR京浜東北線「東十条駅」の間に篠原演芸場という劇場がある。このふたつの駅をつなぐ通りは「演芸場通り」と呼ばれ、昼夜を問わず多くの人が行きかう。そんな通りを埼京線の「十条駅」から200m程、約3分歩くと壁一面真っ青でアラビアンな雰囲気を漂わせたレストランが見えてくる。看板には「パレスチナ料理」とアラビア語と思わしき文字が書かれている。店の扉の手前にはメニューの写真や説明があり、最近は日本にも増えてきた「ケバブ」。その他にもあまりなじみのないスパイスを使ったとみられるお米を炒めたと思しき料理が紹介されている。

〔店の外観〕
フレンドリーでイケメンなパレスチナ人オーナーシェフ
いざ扉を開け店内へと入ると男性店主がカウンターから出てきた。「いらっしゃいませ、こんにちは」。流暢な日本語であいさつをしてくるこの男性は「パレスチナ料理 ビザン」のオーナーシェフ「マンスール スドゥキ」さんだ。あまりに流暢な日本語とモデルのような雰囲気のイケメンルックに驚きを隠せない。初めてのお客さんであっても気さくに話しかけてくれてとてもお店に入りやすく、そして居心地のいい雰囲気を作ってくれるシェフである。彼のファンも多く店に通うお客さんも多いことだろう。

〔マンスール スドゥキさん〕

〔店内は元々建築関係の仕事もしていたスドゥキさんが自ら手がけた。店内のいたるところにパレスチナや中東各国を思わせる品であふれていて、ここが都内であることを忘れさせてくれる〕
パレスチナ料理とは
パレスチナをはじめ中東地域では主に「イスラム教」が信仰されている。イスラム教徒は豚肉やアルコールを口にしないことはよく知られているが、普段口にする鶏肉や牛肉といった食材においてもイスラム教の教えに沿って処理された「ハラール」といった食材を使用する。ビザンでも同様に食材にはハラールの食材を使用し、本場同様のパレスチナ料理が味わえる。ハラール食材だからといっても鶏肉や牛肉の味は日本で食べるそれとは変わらないので安心して頂くことができる。
〔メニューに書かれたパレスチナの旗とハラールマーク〕
主食にはピタパンというナンのようなパンがあり、これに肉などを挟んで食べるのがパレスチナ流。ケバブなどにもピタパンは使われていて、スドゥキさんは毎朝ピタパンを食べることで活力をつけているのだそうだ。パレスチナでは肉や野菜などはあまり直接食べることはせず、ピタパンにはさんで食べるのが一般的だとスドゥキさんは語る。さらにパレスチナはオリーブの生産地としても有名で料理には必ずといっていいほどオリーブオイルが使われる。オリーブのまろやかな口当たりが肉のクセをマイルドにさせているのがパレスチナ料理の特徴かもしれない。

〔ピタパンはパレスチナ料理における主食であり和食で例えるならお米に位置付けられる〕
ビザンのオススメ料理
・マッドゥフーナ

まずは筆者独自の好みを基に好き勝手に注文してみることにした。最初に紹介するのはランチ限定メニューの「マッドゥフーナ」だ。見た目は非常にカレーに近い。未知の中東料理と聞けば地理的にも近いインド料理を創造する人も多いかもしれない。実際にクミンやコリアンダーといったインドのカレー料理には欠かせないスパイスも使われていて、これらのスパイスが世界のいたるところで食されていることがわかる。しかし激辛で有名なインド料理とは対照的にパレスチナをはじめ中東料理は我々日本人が想像するような辛さはなく、比較的さわやかな味わいが特徴だ。マッドゥフーナは鶏肉とほうれん草、そしてトマトを前述のスパイスと、スドゥキさんの母がパレスチナから直接送ってくれる秘伝のスパイスによって味付けされている。この秘伝のスパイスは絶対に秘密とのことなので正体を知ることはできなかった。
実際に食べてみた感想としては見た目の濃厚さとは裏腹に非常にさっぱりしているが、ほうれん草と鶏肉、そしてトマトのうまみを絶妙なスパイス加減が食欲を引き立ててくれる。それでいてセットで付いてくるレンズマメのスープと合わせていただくと一皿では足りないほどあっという間に食べ終わってしまうほどの美味しさだ。気候的には地中海性気候に位置する為か、イタリアンに近い口当たりもあり、それでいて異国情緒にあふれたスパイスも相まって、日本人にとっては味の新たな境地に連れて行ってくれるそんな一品との出会いだった。
ファラフェル

〔ハート形にかたどったファラフェルを手にするスドゥキさん〕
次に紹介するのは「ファラフェル」という料理だ。ひよこ豆のコロッケでサクサクした食感が特徴的。中東地域で広く食べられているがパレスチナではピタパンにトマトやキュウリ、ホンムス(茹でたひよこ豆にニンニクやオリーブオイル、レモンなどを加えてすりつぶしたペースト状の料理)を挟みサンドイッチのようにして食べるのが非常に人気。
味としては外のサクサク感は確かにコロッケに近いが、コロッケの一口目の柔らかさに比べると少し硬い印象があり、一口目から直接中身の味を楽しめたといった感じだ。ファラフェルの中身はすりつぶしたひよこ豆をパセリやコリアンダーを香辛料と混ぜ合わせて揚げる。ひよこ豆は味が染み込みやすいとされていて、大豆のような青臭さはなく程よいスパイスの味わいが楽しめた。揚げ物特有の脂っぽさもピタパンと一緒に食べることによってとても軽やかになりとても食べやすい一品だった。

〔ひよこ豆の色合いが食欲を煽ってくる〕
ラム串焼き

ラムとは言わずと知れた「幼い羊」の肉のことであるが、おおよその目安としては生後12か月未満の羊の肉のことを言う。生後1年以上の羊肉はマトンと呼ばれる。中東地域ではイスラム教が信仰されている影響もあり、豚肉を食べる習慣がない。そのため牛や鶏の他にも羊や山羊の肉が使われた料理が数多く存在する。ビザンには「ビーフ串焼き」や「鶏モモ串焼き」などのメニューもあるが、ジンギスカン料理以外ではあまりなじみのない「ラム串焼き」に挑戦してみた。
ビザンではラム串焼きにほんのりスパイスを効かせた味付けをしている。おそらくスパイスのメインはクミンだろう。早速ピタパンにお肉を挟みスパイスの香りを堪能し、口に運ぶ。お肉の柔らかさがとても印象に残る。噛みごたえもよく、スパイスによって増幅された肉のうまみもピタパンとの相性は抜群だ。ファラフェルの時と同様に感じたのは「ただのパン」だと思っていたピタパンはおそらくどのパレスチナ料理とも相性が抜群ということだ。
マンサフ

最後に紹介するのはスドゥキさんのおススメで、彼自身が一番好きな料理の「マンサフ」だ。お米とパレスチナの母直伝の18種類のスパイス(企業秘密)をフライパンの上で豪快に炒める。スパイスについては完全に非公開だが、作り方のコツとしては強火で一気に炒めることだと教えてくれた。豪快な店主によく似合う料理だ。注文から10分ほどしてから勢いよくフライパンを振る音と、確かなスパイスの香りが厨房から客席へと伝わる。中華料理屋でチャーハンを炒めるときに聞こえてくる楽しみな音であると同時に、チャーハンとは確実に異なるアラブのスパイスの香りが未知の味覚への興味を駆り立てる。十分に火を通し炒め終わったら一口大に切られたトマトが15個ほど真ん中に盛り付ける。トマトとは対照的な色のパセリが全体的にちりばめられていて彩を豊かにする。サウザンドアイランドドレッシングをかければ中東風チャーハン「マンサフ」の完成だ。
見た目の色としてはカレーに近い。しかし辛いというわけではなく18種類のスパイスとソースの酸味が絶妙な味を出している。見た目のこってり感よりもマイルドな味付けとなっていて女性でも満足していただける優しい味といっていいだろう。
オーナーシェフ マンスール・スドゥキさんについて紹介
一通りビザンのメニューを堪能した後にスドゥキさんに来日経緯やお店を開店させた経緯をうかがってみた。
幼少時代と来日経緯
パレスチナ出身のスドゥキさん。なんと兄弟は11人もいるそうだ。そのうちの1人の兄がイスラエルのエルサレムにて日本人の女性と出会い、やがて結婚。その兄がいる日本という国に興味を持ち14歳の時に初来日。それ以前はパレスチナでずっとサッカーに明け暮れていて、自分の所属するチームは負け知らず。なんとパレスチナ代表の候補に選出されるほどのサッカー小僧だったそうだ。ポジションはDF。しかし、パレスチナという土地柄、生活は苦しく幼少のころから養鶏所などでも働いていたそうだ。サッカー場もちゃんとしたゴールではなくバケツを二つ置いて、その間をゴールに見立ててプレーをしていた。そんな生活苦の中でもパレスチナの人々は明るく、それぞれの人生を楽しんでいるのがパレスチナ人の強さと良さだと語る。そして幼少期のころ母が作ってくれた料理がパレスチナ時代の思い出となっている。この味こそが現在のビザンの味につながっている。ちなみにアラブの男性は厨房に入ることはないそうなので、本人のまさか自分がシェフになることは想像していなかったそうだ。14歳で初来日し、しばらくは先に日本にいた兄のところで世話になりながら内装関係や解体工事の仕事で生計を立てた。それと並行し兄が埼玉県の川口でやっていた中華料理屋の仕事も手伝った。この経験が次第に飲食業へと惹かれていく契機となった。その興味は次第に「母国パレスチナの良い面を知ってもらいたい」という感情へと変わる。
2011年 ビザン開店

〔東京新聞の十条紹介の記事に掲載されたビザン 2018年11月3日〕
編集後記
ビザンでの食事、スドゥキさんというオーナーシェフと交流して感じたことは「中東料理が衝撃的に美味い」ということであった。筆者が年にイラクに渡航した際にも感じたことだが、日本人の感覚からすると中東料理は一般的に癖が強い料理は無く、程よいスパイス加減とオリーブ、そして程よい酸味が味わえるのが特徴だと思う。野菜の種類も豊富で栄養価も高い。オリーブは美容にもよいとされているし、豊富な肉料理からはたんぱく質も摂取することができる。今回は紹介しきれなかったがレバノン産のビールやパレスチナワイン、トルコアイスや水たばこなどもビザンでは楽しむことができる。機会があればまた紹介したくなる店だ。
それに加えてビザン最大の魅力といえるのはスドゥキさんの人柄だろう。歳で日本にやってきてそれから覚えた日本語は完ぺきといって差し支えない。それと同時に彼のレストランからは故郷であるパレスチナへの愛も感じる。日本のパレスチナ、十条のビザンへ皆さんのぜひ足を運んでみたらどうだろうか。

〔取材後の記念撮影 写真中央がスドゥキさん〕
ビザン
〒 東京都北区中十条2-21-1
080-3439-8844 ☎03-5948-5711 🚃埼京線十条駅 北口徒歩3分 🚃京浜東北線東十条駅 南口徒歩5分 営業時間:17:00~24;00 金曜日~日曜日はランチ営業あり 定休日:水曜日
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